2025年10月4日に投開票が予定されている自民党総裁選では、5人の候補者が、医療・介護の費用負担やサービス提供を担う現役世代への支援を軸とした社会保障政策を打ち出しています。しかし、具体的な財源確保や制度全体の将来像についての議論は十分とは言えず、今後の社会保障制度の持続可能性や現役世代の負担軽減策に対する見通しは依然として不透明です。
現役世代への負担増が進む中での政策提案
少子高齢化と人口減少が急速に進む日本では、医療や介護の需要が増加しており、制度を支える現役世代の社会保険料負担は年々増大しています。この状況を受けて、各候補者は現役世代の負担軽減策を強調する政策を打ち出しています。
- 小林鷹之元経済安全保障担当相は、デジタル技術の活用による医療の効率化や予防医療の推進を通じて、現役世代の負担を減らす方針を示しました。一方で「能力のある高齢者には、これまで以上の負担を求める」と述べ、世代間の負担の見直しも視野に入れています。
- 茂木敏充前幹事長は、医療・介護・福祉サービスの公定価格を物価連動型に改め、給与水準の低い看護師や保育士の待遇改善につなげる施策を提案しています。物価上昇に見合った報酬改定を行うことで、働き手の確保とサービスの質向上を目指す狙いです。
- 小泉進次郎農林水産相も、物価上昇を上回る公定価格の引き上げで、介護・医療現場の処遇改善を図る方針を掲げています。
子育て世代や低・中所得層への支援策
少子化対策や低所得世帯支援にも重点が置かれています。
- 高市早苗前経済安保相は、共働き世帯の増加に伴い、小学生の放課後保育の需要が高まっている点に着目。企業主導型の学童保育事業を新設し、働く保護者の負担を軽減する施策を提案しています。
- 林芳正官房長官は、低・中所得世帯への包括的支援を目的に「日本版ユニバーサル・クレジット」の創設を提唱。これは英国の制度を参考にした仕組みで、生活困窮世帯の支援を一元化する狙いがあります。林氏は、制度設計には「1~2年かけて慎重に取り組む」と述べ、現実的な運用を重視する姿勢を示しています。
財源確保と議論の深まりは不十分
候補者らは施策の目玉部分を前面に打ち出していますが、財源確保の具体策や、新たな負担が生じる人への補償策など、議論の深まりは見えません。過去には、石破政権下で現役世代の負担軽減策として高額療養費制度の負担上限引き上げが検討されましたが、患者からの反発が強く、実現には至りませんでした。今回の総裁選でも、候補者はこうした敏感な課題には触れない傾向にあります。
野党との政策協議も意識
衆参両院で少数与党となった現状を踏まえ、各候補は政策協議の相手となり得る野党を意識した発言を行っています。
- 日本維新の会や国民民主党は、社会保険料の改革を公約に掲げています。
- 特に維新は、市販薬と類似する「OTC類似薬」の保険給付の見直しを政府に求めており、小林氏は「慢性疾患の患者などに配慮しつつ、花粉症薬や湿布の保険適用を見直す余地がある」と述べています。
今後の課題と展望
総裁選で示された施策は、いずれも現役世代支援や子育て世代・低所得層への配慮を軸としたもので、短期的には注目を集める可能性があります。しかし、制度全体の財源、世代間負担の調整、物価上昇への対応など、社会保障制度の将来像を描く議論はまだ不十分です。持続可能で安心できる制度を構築するには、現場の意見を踏まえた財源確保策や負担調整策を具体化する必要があります。
日本の少子高齢化が進む現状では、現役世代への負担軽減と高齢者支援の両立が、政策の成否を左右する重要なポイントとなるでしょう。総裁選後の社会保障政策の行方は、今後の国民生活や経済に大きな影響を与えるテーマです。