2025年9月11日、袴田事件で再審無罪が確定した袴田巌さんの弁護団は、国に対して損害賠償請求訴訟を静岡地裁に起こしました。今回の訴訟は、2024年10月に畝本直美検事総長が発表した談話が袴田さんの名誉を毀損したとして提起されたもので、請求額は約6億円に上ると報じられています。
訴訟の背景
袴田事件は1966年に発生した強盗殺人事件で、袴田さんは長期間にわたり拘束され、後に再審で無罪が確定しました。静岡地裁は再審において、袴田さんが犯人でないことを認定しましたが、当時の検察は控訴を断念しました。
しかし、袴田さんの無罪判決確定後、畝本検事総長は談話を発表し、裁判所の判断に強い不満を示しました。談話では、衣類などの証拠を巡る裁判所の指摘を「捜査機関のねつ造と断定したことには強い不満を抱かざるを得ない」と述べ、「本判決は多くの問題を含む、到底承服できない」と批判しています。
弁護団の主張
弁護団は、無罪が確定した袴田さんを依然として犯人視するような検事総長の談話は、明確に名誉毀損に該当すると指摘しています。袴田さんの姉であるひで子さんも、「個人的にはともかく、職業上あのように言わざるを得なかった部分もあると思う。しかし、後に続く人たちのためにも、弁護士には引き続き頑張ってもらいたい」と述べています。
提訴の内容
今回の訴訟は主に以下の2点で構成されています。
- 名誉毀損に関する訴訟
2024年10月の検事総長談話が袴田さんの社会的評価を傷つけたとして、国に対して損害賠償を求めています。 - 違法捜査に関する訴訟
弁護団は、過去の警察・検察による違法捜査や証拠捏造に対しても国家賠償請求を検討しており、名誉毀損とは別に訴訟を起こす方針です。
当初は2025年8月18日(袴田さんが逮捕された日)に提訴する予定でしたが、準備期間を経て9月に提訴日を変更しています。
和解の可能性
弁護団は、国との間で和解協議に入る可能性も視野に入れており、裁判所での長期的な争いを避ける方法も検討されています。
今後の見通し
この訴訟は、刑事司法における検察の責任のあり方や、再審制度の課題を巡る議論に大きな影響を与える可能性があります。特に、再審で無罪が確定したにもかかわらず、検察が過去の判断の正当性を主張する姿勢は社会的にも批判の対象となり得ます。
弁護団や支援者は、再審法の改正や制度改善の必要性も引き続き訴えており、この訴訟は単なる損害賠償請求に留まらず、刑事司法改革の議論にもつながる重要なケースと位置付けられています。
ポイント
- 訴訟の発端
- 袴田事件で再審無罪が確定した袴田巌さんの弁護団が、2024年10月の畝本直美検事総長の談話を名誉毀損と主張して国を提訴(2025年9月11日)。
- 検事総長談話の内容
- 静岡地裁の無罪判決に対し「捜査機関のねつ造と断定したことには不満」「判決内容には問題が多い」などと批判。
- 弁護団の主張
- 無罪確定後も袴田さんを犯人視する発言は名誉毀損に当たる。
- 違法捜査や証拠捏造に対する国家賠償請求も検討中。
- 提訴内容と請求額
- 名誉毀損訴訟:検事総長談話による損害賠償請求。
- 請求額は約6億円。
- 当初は8月18日提訴予定だったが、準備期間を経て9月に提訴。
- 和解の可能性
- 国との和解協議も視野に入れている。
- 今後の見通し・意義
- 刑事司法における検察の責任のあり方や再審制度の課題への影響が大きい。
- 再審法改正など、制度改善の議論につながる可能性。
まとめ
- 袴田事件の再審無罪確定後も、検察側の談話が社会的評価を傷つけたとして国を訴える動きが注目されている。
- 訴訟は名誉毀損だけでなく、違法捜査や証拠捏造に対する国家賠償請求も視野に入れている。
- 請求額は約6億円で、和解協議の可能性もある。
- このケースは、検察の責任や再審制度の課題を巡る議論に影響を与える重要な事件であり、今後の刑事司法改革にもつながる可能性がある。