インドネシア、ネパール、フランスなど世界各地の抗議運動で、日本の人気漫画『ワンピース』に登場する海賊旗「ジョリー・ロジャー」が若者たちの象徴として掲げられています。笑う骸骨に赤いリボンの麦わら帽子をかぶったこの旗は、単なる漫画のキャラクターではなく、現状打破や自由、反抗の象徴として認識されているのです。
2025年9月、ネパール・カトマンズでは、政府によるSNSアクセス制限への抗議が暴動に発展した際、ワンピースの旗が炎上する政府施設の上で翻っていました。インドネシアやフランス、フィリピンでも同様に、若者たちは社会的不平等や政治腐敗に対する不満を表現する手段として、この旗を掲げています。
ワンピースは1997年の連載開始以来、世界中で5億部以上を売り上げる人気作品です。主人公モンキー・D・ルフィ率いる「麦わらの一味」は、腐敗した世界政府に立ち向かいながら自由と冒険を求めて航海します。この物語は、Z世代にとって単なるエンタメではなく、抵抗や不屈の精神を象徴する文化的アイコンとなっています。ルフィが「悪魔の実」を食べて能力を得る描写は、限界を超えるレジリエンス(回復力)の象徴としても受け止められています。
抗議者がワンピースの旗を掲げる理由は、見た目の派手さや人気作品だからだけではありません。数百万人に通じる「抵抗の物語」を引用することで、社会的なメッセージを強調しているのです。2023年にはニューヨークでの親パレスチナデモでも旗が掲げられましたが、本格的な政治的象徴としての意味を帯び始めたのは2025年8月のインドネシアでの抗議からでした。若者たちは政府の腐敗や格差に抗議するため、独立記念日にもあえて国旗ではなくワンピースの旗を掲げました。
ワンピースの旗が国境を越えて広がった背景には、Z世代のデジタルネイティブという特性があります。SNSを通じて情報や文化を即時に共有できる彼らは、組織や政党に頼らず、文化的共通認識だけで連帯を築きます。旗やミーム、ジェスチャーは言語や宗教、地理の違いを超えて意味を伝えるため、短時間で世界中に広がるのです。
この旗の曖昧さも強みとなっています。ポップカルチャー由来のため、政府による弾圧は逆に権威主義的に映り、市民の怒りを増幅させる結果となることもあります。実際、インドネシアでは当局が旗を押収し「反逆的」と非難しましたが、抗議者の怒りはむしろ強まりました。
ワンピースの旗は、世界の抗議運動において、文化的象徴と政治的メッセージを融合させた効果的なツールとして機能しています。ジャカルタ、カトマンズ、マニラ、パリ、ローマなどで掲げられるこの旗は、Z世代のデジタル文化を背景にした新しい抗議表現の代表例です。
まとめ
『ワンピース』の海賊旗は、Z世代の若者たちにとって、自由や反抗、不屈の象徴として世界中の抗議運動で掲げられています。SNSやデジタル文化を通じて国境を越えて広がり、各国の政治的不満や社会問題と結びつきながら、新しい形の抗議のシンボルとなっています。ポップカルチャーを政治的表現に変えるこの旗の存在は、現代の若者運動の特徴を象徴しています。